2018年5月5日土曜日

七時間半

獅子文六『七時間半』は特急列車を舞台としたドタバタ大衆小説である。東海道新幹線ができる前、東京から大阪まで七時間半かかっていた時代である。
乗務員や乗客の恋模様が中心であるが、乗客の総理大臣を狙って全学連トロツキストが爆弾を仕掛けたとの噂が広がる。戦後昭和の風俗を反映した作品である。全学連トロツキストの噂も当時の風俗の反映であるが、作品内での存在感は小さい。存在感はスリ以下である。それは、そのまま当時の人々の感覚になるだろう。
本書の乗客は「日米条約なんて、賛成でも、反対でもないんだ、自分の安全保障の方が、忙しくて、あんな問題、どうでもよかったんだ」と語る(273頁)。これは当時の人々の一つの感覚だろう。学生運動家だったシニア世代の回顧談を聞くだけでは偏ったものになる。
本書には強盗資本が伊豆半島を乱開発しているとの説明がある(145頁)。これは東急不動産だまし売り裁判原告として笑った。強盗資本とは強盗慶太の東急グループだろう。
面白さは時代が変わっても通用するが、21世紀の現代と最もギャップがある点は女性の意識だろう。男を手玉に取ることが楽しみという女性は昭和の男性からの女性観に見える。セクハラであるか否かについて世代によって受け止め方に、絶望的な断絶が生じることは仕方がないのだろうか。
私は男性であり、セクハラ被害者の痛みが本当に分かるかは分からない。しかし、個人に負担や我慢を押し付け、前向きに頑張ることを強要する昭和的なガンバリズムには嫌悪を覚える。

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