2016年10月18日火曜日

激しき雪

『激しき雪』は野村秋介を取り上げたノンフィクションである。野村氏は民族派右翼とされる。彼の姿勢は権力や大企業の犬となっている所謂一般的な右翼とは全く異なる。本書も「自民党・財界を補完する形で戦後体制の強化に貢献してきたポツダム右翼を撃つ」という意識があったと分析している(207頁)。
野村氏の面白いところは左翼側にも人脈が広がり、共闘していることである。単なるイデオロギー対立に囚われていない。この右翼と左翼の共鳴は全学連委員長を描いた『唐牛伝』でも指摘されている。これに比べると昨今の野党共闘の動きは狭い世界の共闘に見える。
経団連襲撃事件では大企業の経済至上主義を批判している。檄文では「環境破壊によって人心を荒廃させ、「消費は美徳」の軽薄思想を蔓延させることによって、日本的清明と正気は、もはや救い難いところまで侵食されている」(209頁)と訴える。このような右翼思想は大きな意味がある。というのは左翼思想は分配の公正を重視するが、そのためには分配するための果実が必要であり、経済至上主義を必ずしも否定しないところがあるためである。
野村の弟子達による住友不動産会長宅襲撃事件も痛快である。地上げ屋などを使って狂乱地価を招いた元凶と告発した(180頁)。この事件は犯罪として処理されたが、地上げを社会問題として認知させることに寄与した。私は大手不動産業者と不動産購入トラブルの経験があるため、ここは痛快であった。
本書には官僚主義の救い難さも描かれている。フィリピンのゲリラの人質となったカメラマンを野村らが解放交渉で解放に成功する。日本大使館員は人質解放に何の役にも立たなかったばかりか、解放後にカメラマンに「パスポートを持っているか」と質問するなど犯罪者を扱うような態度であった。野村が怒って大使館員へのカメラマンの身柄引き渡しを拒否したことは当然である。
日本人が海外の武装勢力の人質になると言えば、イラク人質事件が印象深い。そこでは右と左で意見の溝が生じた。

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