2016年9月4日日曜日

龍宮の鍵

田中経一『龍宮の鍵』は伊勢の歴史あるホテルを舞台にしたミステリーである。このホテルは戦前の地元名士によって創設されたが、戦後経営者が変わり、平成になって外資に買い叩かれ、厳しいリストラ、コストカットが行われる。このように書くと外資が悪玉のように見えるが、むしろ一番の悪玉は日本の経営者層になっている。本書は外資の問題点も描くが、日本の体制の問題を直視している。地元の実力者と行政のなあなあの関係によって、消防署の検査が杜撰になり、そのためにホテル火災の被害が拡大した(54頁)。醜い足の引っ張りがある点は日本的経営も外資も全く同じである。
利益至上主義の筈の外資が最後に物分かりが良くなる点は小説の御都合主義であり、リアリティーに欠けると批判することはできる。それでも昭和の経営者と外資という二つの敵を設定した場合にどちらの方が話が通じるかとなると後者を選択することは市民感覚から外れていない。
何故ならば外資は公正というルールを建前としては持っており、それは弱者の武器にもなるからである。実際、セクハラやパワハラは外資的な経営倫理が日本に入らなければ普及しなかっただろう。逆にブラック企業は昭和の日本的経営、家族経営を経営側に都合よく推し進めた結果である。
アングロサクソン的な利益至上のハイエナ資本主義に対する反発は広く共有できるものである。しかし、そこから何を守るかが問題である。昭和戦後の日本的経営を守れでは既得権擁護の守旧派に見えてしまい、魅力を感じない。本書のように戦前の日本にあった良いものを取り戻すという感覚が自然なものとして受け入れられるかもしれない。それを反動や復古主義と貶められないだろう。

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