2016年7月17日日曜日

鳥越俊太郎候補の労働政策

東京都知事選挙の鳥越俊太郎候補が政策を発表した。興味深い政策は労働政策である。「笑顔あふれる輝く東京へ」で「希望する人が正社員になれる格差のない社会を目指し、仕事と家庭の両立を支援します」「正社員化を促進する企業を支援し、不本意非正規社員の解消に努めます」と掲げる。証紙ビラでも「望む人が正社員になれる格差のない社会」を「都政を取り戻すための政策」として掲げる。

「希望する人」「望む人」を正規化し、不本意非正規社員を解消するというところがポイントである。左派左翼の労働問題の論調には派遣労働などの非正規雇用という制度が、まるで格差を生み出す諸悪の根源とするようなものがある。それは非正規雇用の中でキャリアアップをしてきた人々にとっては自己否定されたように感じる。

非正規雇用にとって賃金などの格差は大きな問題である。それは同一労働同一賃金によって実現されるものであり、非正規雇用の制度自体を攻撃する必要はない(同一労働同一賃金は少なくとも理念としては与野党でコンセンサスが得られており、もはや差別化できる政策ではない)。

左派左翼の非正規雇用批判を見ると、「俺達の現役時代は派遣労働なんかなくてもやっていけた。だから派遣がなくても経済は回る」というシニア世代の価値観の押し付けが感じられてならない。しかし、そのシニア世代が「昔は良かった」とする高度経済成長期の働き方を現代に復活させればブラック企業になるだろう。

ブラック企業が正社員を対象に生まれた言葉であることを忘れてはならない。逆に派遣労働には欧米流のジョブ型雇用に近い面がある。現実にブラック企業で問題になるサービス残業は派遣社員よりも正社員で起こりやすい問題である。

この意味で望む人を正規化する鳥越候補の労働政策は、派遣労働が良いという人の選択肢を否定していない点で当事者のニーズを満たしている。これは与野党問わずブラック企業に問題意識がある政治家のコンセンサスが得られるところである。自民党代議士も以下のように書いている。

「空いている時間だけ働きたい、派遣で働きたいという方々の雇用の場も大切だ。しかし、正社員で働くことを望んでいる人に対しては、そうした場をいかに確保していくかという点が最も大事だ」(薗浦健太郎『ブラック企業は国賊だ 雇用再生への処方箋』中央公論新社、2013年、189頁)

正直なところ、私は鳥越候補の出馬を聞き、シルバーデモクラシーの権化のようなイメージを抱いた。若年層や現役世代は切り捨てられる、何を問題意識としているかさえ理解されないのではないかと懸念した。しかし、鳥越政策を読む限り、一安心できる。鳥越政策では「貧困・格差の是正に向けて、若者への投資を増やすなど、効果的な対策に取り組みます」と若者への投資を増やすというストレートな政策もある。

今や周りに正社員しかいないという職場の方が画一的な気持ち悪い。契約形態が異なっても、それが人間としての格差になることはない。むしろエキスパートやスペシャリストとして敬意を払っている。格差社会の是正とは差異をなくすではなく、差異に基づく差別をなくすことだろう。

この問題が重要であると考える理由は石田純一擁立劇への批判を目にしたためである。そこでは著名人を持て囃すシニア世代の不見識を批判している。批判者もシニア世代であるが、同年代として恥ずかしいとまで述べている。

この著名人を持て囃す心理は異なる世代である私には理解しにくい。たとえば歌が上手い人やダンスが上手い人をリスクペクトする気持ちはある。しかし、その人に政治的見識があるかは別問題である。だから私達の世代にとって元SPEEDの今井絵里子さんはスターであったが、参議院議員選挙候補者としては女衒の情夫と容赦なく批判する。

故に批判者の批判されるように著名人ということで人間としての等級も上のように扱う意識がシニア世代にあるとしたら恐ろしい。そのような人間こそ一番の差別主義者である。人間が平等であるべき理由は、差異がなく同じ人間だからではない。差異があっても権利の上で平等に扱わなければならない。

逆に言えば、差異のあるもの同士を平等に扱えないから、「非正規労働をなくさなければない」という結論になるだろう。その種の論者が心の中では最も非正規労働者を見下しているように感じられてならない。それが肌感覚で感じ取れるから若年層非正規労働者が郵政解散選挙で小泉純一郎氏を支持するということが合理的行動として説明できるようになる。鳥越政策には、このような左翼教条主義の傲慢さが感じられない点は好感が持てる。
http://www.hayariki.net/poli/koyou.html
最後に公正のために説明すると、もともと私は宇都宮健児さんが東京都知事に最適と考えていた立場である。この立場としては、小池百合子候補支持を決定した「かがやけTokyo」の都議会議員らが宇都宮さんに対して公正に論評していることには敬意を表している。

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