2016年5月17日火曜日

江戸の非人頭・車善七

『江戸の非人頭・車善七』は江戸時代の江戸の非人頭・車善七についての書籍である。車善七は代々襲名した名前である。車善七の住居の場所、弾左衛門との争い、明治の車善七など特定トピックを中心に書かれている。車善七を知らない人が体系的に理解するための書籍ではない。車善七を知っている人が理解を深めるための書籍である。タブーとされがちな分野で本書のような深い書籍が出ていることは興味深い。
歴史の教科書では、えた非人は圧倒的多数の被支配階級の不満をそらすために創設された身分制度と説明され、それ以上は語られない傾向がある。これに対して本書では非人が江戸という大都市の維持に必要な存在であったことを示す。えた頭の弾左衛門との争いは、賤民階級と一くくりにされる人々の中でも複雑さがあることを示している。捏造ではあるが、源頼朝以来の由緒を持ち出して、自己の正当性を裁判で主張する姿には、ある種の誇りを持って生きていたと感じられた。
幕末の説明では、江戸城明け渡しが一般にイメージされるような平和的なものではなかったと説明される。錦の御旗を掲げた官軍は関東や東北の住民に傍若無人であった。それを本書は戦前戦中の皇軍兵士の中国などでの傍若無人の原点と説明する。この説明に納得である。天皇制は日本人に優しくない。
えた非人は現代につながるためにセンシティブな問題である。意識しないようにすることで差別をなくしていこうとする傾向にあった。しかし、単に差別される階級と片付けられない深さがある。その子孫であることにアイデンティティーを見出だす人がいたとしても理解できないことではない。分からなくしてしまうことが差別解消になるのか考えさせられる。

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