2015年7月10日金曜日

持たない幸福論

#本 #書評 #書籍 #読書
『シャアの日常』は機動戦士ガンダムの最も有名なキャラクターと言っていいシャア・アズナブルを主人公としたギャグ漫画である。シャアは記憶を失い、何故か現代日本のアパートで生活している。シリアスなキャラクターであるシャアと日常生活のギャップが笑いを誘う。
ガンダムにおいてシャアは完全に主役を食ってしまった。本来アムロは平凡な少年が戦場という非日常で活躍するという視聴者が感情移入できるヒーローの素質があった。ところが、アムロが属する連邦は腐敗した強権的な官僚機構が幅を利かせる、どうしようもない組織であった。結果として腐った連邦を利することにしかならないアムロの戦いに感情移入しにくい。連邦よりもジオンを応援したくなることは自然な流れである。勿論、ジオンにも問題がある。

『持たない幸福論、働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない』(幻冬舎)はニートによる人生論である。著者は毎日通勤する生活に疑問を覚えてニートになり、シェアハウスで生活している。所謂普通の人とは変わった人生であるが、その主張には共感できるところが多い。
著者の主張のベースには経済的な上昇思考の否定がある。年収何千万円というようなことが個人の幸せを約束するものではない。高額な旅費をかけて海外旅行に出なくても、普段行かない近所の路地を散策するだけでも新しい発見がある。高級レストランで神経を使うよりも、自炊生活が純粋に楽しい。負け惜しみでも何でもなく、純粋に実感できる。逆に自分自身の幸福の価値を持たず、ひたすら経済的上昇を追い詰めるとブラック企業経営者や危険ドラッグ売人のような非道徳的な人間が出来上がってしまう。
その意味では著者が現代を過去よりは相対的にましな時代と評していることは意義深い。確かに貧困や格差は深刻である。しかし、昭和に比べて現代の方が普通でないことへの風当たりが弱まっていることも確かである。昭和に比べれば価値観の多様性が認められている。もし、反貧困などの運動が「新自由主義が日本をダメにした。昭和の日本はよかった」というスタンスならば、普通を押し付ける昭和の日本に息苦しさを覚える人々にとっては運動自体が守旧派に映るだろう。

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