2015年6月6日土曜日

ブラック企業と日本型雇用

ブラック企業と日本型雇用には共通点と相違点がある。共通点は従業員に無限の奉仕を要求するところである。ブラック企業は従業員を使い捨てにするが、日本型雇用でも私生活を犠牲にする会社人間(社畜)や過労死が存在した。相違点は、ブラック企業には日本型雇用に存在した従業員の生活保障的な側面が欠けているところである。ブラック企業は日本型雇用のマイナス面を極大化した存在と見ることができる。

このようにブラック企業と日本型雇用には共通点も相違点も認められるが、分析者の価値観や問題意識によって、どちらを強調するかが変わる。管見は共通点を重視する。相違点を重視する立場は日本型雇用の双務性を評価する傾向がある。企業は労働者に無限の奉仕を要求するが、雇用保障や生活給なども提供する。労働者にとって長期的に見れば一方的に損な取引とは言えないとする。これに対してブラック企業は一方的に搾取するだけという視点である。

しかし、この視点には異論がある。ブラック企業も従業員に価値を提供している。正社員という価値である。非正規雇用が拡大したために正社員というだけで価値がある。これに対して日本型雇用の正社員に比べて中身がなく、割に合わない契約と批判することはできる。しかし、日本型雇用も過労死したならば割に合わない契約である。その不合理さは外国人には理解できず、過労死は翻訳できないためにKAROSHIのまま通用するようになった。日本型雇用に一応の合理性を認めて、ブラック企業を不合理とすることは、日本型雇用の枠内からの視点で、日本型雇用を突き放して見られていないように感じられる。

共通点と相違点のどちらを重視するかという視点は、ブラック企業批判のアプローチにも影響を及ぼす。共通点を重視する立場ならば、ブラック企業は日本的雇用の延長線上にあるとして、ブラック企業をきっかけに日本型雇用の問題点にも斬り込む。これに対して、相違点を重視するならばブラック企業と日本的雇用の異質さを強調し、純粋にブラック企業的な面を批判する。後者は、意識的か無意識的かは別として「ブラック企業から日本型雇用を守る」という姿勢につながる。

それが好ましいことかという問題がある。日本型雇用は理想モデルと評価するようなものかという問題である。以下の観点を踏まえるとブラック企業を批判する上で日本型雇用を擁護することは、無用であるどころか、有害にも映る。

第一に日本型雇用が望まれているかという問題である。社畜と揶揄されるような生き方が望まれているかという問題である。雇用保障は望まれるが、終身雇用や長期雇用を望んでいる訳ではない。ブラック企業問題では「解雇された」という話だけでなく、「辞めさせてもらえない」という話もある。

第二に世代間公平の観点である。若年層の中には日本型雇用は世代間不公正を固定化・拡大するものとの批判がある。たとえば大学生らの「就活くたばれデモ」では若年層が就職しやすくするために解雇規制を緩和して雇用流動性を高めるべきとの主張がある。

第三に日本型雇用の公平性への疑問である。最初から日本型雇用における正社員への手厚い保障は、周辺労働者(社外工、季節工、パート、アルバイト、女性労働者)との格差があって初めて成り立ったものではないか。

第四に日本型雇用が持続可能な成功モデルとして成り立つかという問題がある。年功序列賃金は右肩上がりの経済成長を前提として初めて成立したものではないか。環境問題や人口減少を考えれば右肩上がりの経済成長自体が目指すべき目標にならなくなった。

共通点と相違点のどちらを重視するかという視点は、多数派戦略からも考察できる。一見すると相違点を重視する方が多数派戦略としては優れている面がある。日本型雇用に問題意識を持つ人も日本型雇用を擁護する人もブラック企業批判でまとまれるからである。特に第二の論調に対しては支配層の分断戦略に乗っかったものとの批判がある。ゼロサム的な解決策よりも、皆が幸せになれる解決策の方が好ましいことは言うまでもない。

日本型雇用は日本企業の都合を反映したものであるが、それだけではなく、労働運動・労働争議とのせめぎあいで形成されたものである。日本型雇用の中にも市民側の達成点と呼ぶべきものがある。従って「ブラック企業から日本型雇用を守る」取り組みを既得権益擁護とは一概に切り捨てられない。
http://www.hayariki.net/eco/job.html
しかし、具体的な運動が「ブラック企業から日本型雇用を守る」ものばかりであるとしたら、日本型雇用への問題意識には全く応えていないことになる。「分断を生み出すな」との主張はもっともらしいが、自分達の問題意識を相手に押し付けるだけで、ブラック企業と共通する日本型雇用の問題提起を軽視する姿勢も分断の原因になる。第二の論調を「分断戦略に乗っかった浅薄な考え」と上から目線で批判するだけでは、就職活動に苦しむ大学生らの問題意識に全く応えていない。

この硬直性は左翼の衰退・不人気の一因でもある。社会に問題意識を持っても左翼が解決策とは思えなくなる。逆に「戦後レジームの脱却」や「現状維持か改革か」に魅力を感じる傾向がある。日本型雇用を守るだけでは救われない人々の思いをどれだけ汲み取れるかが問われるだろう。

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