2013年11月2日土曜日

ワンピース72巻v林田力Amazonレビュー

尾田栄一郎・ワンピース72巻(集英社、2013年)はドレスローザ編の続きである。麦わらの一味も大所帯になっており、別行動をとることが多くなった。各々に見せ場を作ろうとすると、平行して話を進めることになり、物語のテンポが削がれる。特にエニエスロビー編のように一対一の対決を繰り返すならば、バトルのためのバトルという人気少年マンガが陥りがちな罠にはまってしまう。これに対して今回は各自別々の行動が一つの方向につながったという点で、物語構成として見事である。ストーリー的には脱線になるルフィのトーナメント出場も空間的には本来の目的とつながっていた。
ドレスローザ編の問題点は、敵であるドンキホーテ・ドフラミンゴがチンピラ・ヤンキー風の外見で迫力がないことである。最初の七武海のクロコダイルのような貫禄に欠ける。チンピラ・ヤンキーは主人公に瞬殺されると相場が決まっている。もしチンピラ・ヤンキーに苦戦するならば、引き延ばしに思えてしまう。
ところが、この巻ではドフラミンゴが海軍以上に密接に世界政府の上層部と繋がっていることが仄めかされる。さらに空白の百年につながる長い歴史的経緯があることも仄めかされる。ドフラミンゴの権力は、シャンクスや白ひげのように個人の才覚ではなく、世界政府の後ろ楯のある世襲的なものとの推測が成り立つ。これはドフラミンゴが若様と呼ばれていることからも符合する。これによってチンピラ・ヤンキー風の外見ながら、強大な敵と位置付けることに説得力が出てくる。
この巻ではドレスローザの闇の部分が明らかになる。虐げる者と虐げられる者がいる。これはイーストブルーのナミの村と同じであるが、そこでは虐げる者は外部から来た征服者であった。これに対してドレスローザでは市民が差別する側に回っている。連載長期化によって社会性が深まっている。ワンピースは空島編はパレスチナ問題、魚人島編はヘイトスピーチなどの徘外主義を連想させる。直前のパンクハザード編は脱法ハーブ(脱法ドラッグ)などの薬物蔓延への批判的視点に立つ。差別や搾取を描く漫画が大ヒット作品となっていることは日本社会にとって救いである。

0 件のコメント:

コメントを投稿