2013年11月23日土曜日

『八甲田山死の彷徨』ブラック企業につながる

新田次郎『八甲田山死の彷徨』は青森県八甲田山での日本陸軍の山岳遭難事故を題材とした小説である。青森第五連隊は雪中行軍の演習中に遭難し、210名中199名が死亡した。全滅に等しい。ここで描かれた体質は太平洋戦争での日本軍の無謀さ、無責任さに通じる。それは福島第一原発事故や東急不動産だまし売り裁判、東急ハンズ過労死、東急ホテルズ食材虚偽表示など現代の日本企業の問題にも通じている。

八甲田山雪中行軍では青森第五連隊の失敗と弘前第三十一連隊の成功が対照的に描かれる。青森第五連隊は失敗すべくして失敗したと位置付けられがちであるが、青森第五連隊の神田大尉は入念に計画を立てており、逆に計画に時間をかけ過ぎたために準備時間が乏しくなったという皮肉な結果になっている。準備のための準備になっていないか、計画書作成が目的化していないか、という点は落とし穴になる。

史実の青森第五連隊と弘前第三十一連隊の雪中行軍は別個独立のものとされるが、物語では八甲田山の雪中行軍は寒冷地の行軍の研究と内陸輸送ルートの確保という二つの目的があった。弘前第三十一連隊の成功要因が小隊にも満たない少人数で装備も軽かったことにあることは確かである。それは雪中踏破に最適化されているが、軍隊の移動・物資の輸送という設定された目的を満たすものか、いわばクライアントの要望を満たすものか、疑問がある。
http://hayariki.net/home/36.htm
青森第五連隊と八甲田山ですれ違うという上官の思い付きを言質にとって自己の計画を認めさせた徳島大尉の手腕は巧みである。踏破距離が長いために一見すると無謀な計画と思わせておきながら、すれ違うことを目的化することで大部隊にしないなど難易度を下げている。

これに対して青森第五連隊が大規模な編成であった。これは失敗要因である。それは山田少佐が横槍を入れたためであり、山田少佐は物語上のヒールである。青森第五連隊と弘前第三十一連隊を競わせるという設定の中で、本来の目的を踏まえると、先に弘前第三十一連隊の計画が出された以上、それ以上のことを盛り込みたくなる心理は理解できないものではない。

師団が責任を持たず、青森第五連隊と弘前第三十一連隊を競わせるという師団上層部の無責任体質が構造的な問題である。これは物語上のフィクション設定であるが、そのような体質が日本の組織には存在する。組織は何ら手当せず、個人の頑張りで解決しようとする特殊日本的精神論・ガンバリズムである。この無責任は現代のブラック企業にもつながっている。
Poverty Business in Tokyo [Formato Kindle]
http://www.amazon.it/dp/B00GMTNGCC

0 件のコメント:

コメントを投稿