2013年10月26日土曜日

時鐘の翼

ルカ・マサーリ著、久保耕司訳『時鐘の翼』(シーライト・パブリッシング、2013年)はイタリアのSF小説である。タイムトラベルができるようになった未来。時間旅行会社ベル・エポックの陰謀によって歴史が改変され、第一次世界大戦は中央同盟国優位に進んでいた。

世界大戦のアクターとしてイタリアの評価は必ずしも高くない。第一次世界大戦では三国同盟の裏切り者であり、第二次世界対戦ではドイツの足を引っ張ったというイメージがある。酔っぱらったドイツ人が日本人に「今度はイタリア抜きでやろうぜ」と言ったという不謹慎な笑い話があるほどである。しかし、民衆の力でムッソリーニ政権を倒したイタリアはドイツや日本に対して誇っていい。その意味でイタリア人の活躍を描く本書は新鮮である。

タイムトラベル物は未来人とタイムトラベル自体を認識できない過去の人々のギャップが問題になることが多い。しかし、本書は二十世紀のヨーロッパ人が相手であり、未来についての飲み込みが早い。未来の技術も使いこなし、未来の世界でも大活躍する。未来の直線的な建築意匠に対しては「美に対して合理的で無感覚になってしまった」と手厳しい(389頁)。「コンクリートから人へ」の思想が大切であると再確認した。

本書は航空戦の描写が詳細である。機体を軽くするために木や布でできている原始的な飛行機の時代の航空戦を楽しめる。この時代の飛行機は自分の肌が外界と接し、身体の延長線上の感覚がある点で、自動車よりも自転車的である。
http://hayariki.net/home/20.htm
また、大衆社会化する直前の第一次世界大戦は将校に貴族意識が色濃く残っている最後の時代でもある。本書では高貴な貴族精神を描く一方で、貴族の将校に対する兵士の不満や下僕を人間扱いしない貴族意識などのマイナス面もリアルに描く。

さらに本書では改造飛行機の飛行テストで死亡事故が起きる。パイロット達は改造飛行機に問題があると考え、テストの中止を要求し、司令官に受け入れられる。要求を拒否したら、集団脱走されかねない勢いであったためである。実際の歴史でドイツ帝国を打倒したドイツ革命も無謀な攻撃命令に対する水兵の反乱がきっかけであった(キールの反乱)。

兵士は上官の命令に従うだけの奴隷ではなく、自分でものを考える労働者である。無謀な特攻や玉砕を繰り返した日本軍とは異なる。日本でブラック企業が社会問題になることも理解できる。命令に従うだけの奴隷でなく、自立した近代人としての人間像が未来社会でも通用するヨーロッパ人につながっている。
Poverty Business in Tokyo eBook: Hayashida Riki: Amazon.com.mx: Tienda Kindle
http://www.amazon.com.mx/dp/B00FW2UMKE

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