2013年10月11日金曜日

『刑事たちの三日間』貧困都市の闇

アレックス・グレシアン著、谷泰子訳『刑事たちの三日間 上下巻』(創元推理文庫、2013年)は、ヴィクトリア朝ロンドンを舞台とした警察小説である。スコットランド・ヤード殺人捜査課に配属されたばかりの新米警部補ウォルター・ディは刑事殺人事件の捜査を命じられる。

ちょうど切り裂きジャックが姿を消した頃である。切り裂きジャックを契機として、合理的理由なき猟奇殺人が続発するようになった不気味さが描かれる。一方で犯罪者側の心理も描かれることで、理解不能な異常者の犯罪というステレオタイプからも抜け出ている。近代都市は合理的理由なき猟奇殺人という心の闇を生み出したが、貧困などの社会の矛盾を背景としたものである。

『刑事たちの三日間』に一貫して漂う重苦しい雰囲気も、霧の都ロンドンの天候を反映しただけではない。産業革命によって生じた貧困と格差、阿片の蔓延という社会病理を直視していることによる。これは構造改革で貧困と格差が拡大し、脱法ハーブが蔓延する現代日本にも重なる。下巻に登場する救貧院の貧しい住環境は現代日本の貧困ビジネス、脱法ハウスそのものである。
http://hayariki.net/futako/47.htm
私は「本が好き」を通して現代英国の警察小説『冬のフロスト』を読んだことがある(林田力『東急不動産だまし売り裁判12東急リバブル広告』「『冬のフロスト』警察の腐敗」)。誤認逮捕を連発するトンでもない小説であったが、小説の雰囲気には明るさがあった。『刑事たちの三日間』のような暗さは英国警察小説では王道である。その中ではフロスト警部シリーズに新鮮な魅力が感じられる。

『刑事たちの三日間』は複数の事件が同時進行するモジュラー型の小説である。全てが一人の黒幕に起因するというような単純な話ではない。しかし、別々の事件の関係者が互いに接点を持っており、一つの物語としてまとまっている。名探偵の冴え渡る推理という面は乏しい。犯人の方が破滅に向かって一直線に進んでいる。この点も社会病理の蔓延する貧困都市の闇を強く印象付ける。

0 件のコメント:

コメントを投稿