2013年8月5日月曜日

林田力Amazonレビュー『ペリー』

佐藤賢一『ペリー』は幕末の日本を開国させたペリーを主人公とした歴史小説である。ペリーの黒船来航は日本人にとって有名な出来事であるが、ペリーの視点で描かれている点が新鮮である。アメリカの日本に対する戦略が見えてくる。それは現代にも当てはまる。

アメリカにとって日本は中国への足掛かりであった。「より確かに、より強く、より大きくチャイナを手に入れるために、アメリカにとってジャパンが重要なのであり、あくまでもチャイナが主、ジャパンは従なのである」(151頁)。日本には中国と対抗するために対米従属を是とする考えがあるが、日本の国益から日本が中国と争うことを米国は望まない。

日本をヨーロッパ諸国ではなく、アメリカが開国させたことも、中国への足掛かりという点では納得である。アメリカが中国にアクセスするためには日本は通り道にある。ヨーロッパから中国にアクセスするならば、インド洋経由であり、日本は通らない。中国中心に考えれば日本の重要性はヨーロッパとアメリカで異なる。

ヨーロッパ諸国にとって日本は相対的に軽視されていたが、それでもペリーにとってイギリスの動向は無視できないものであった。当時のアメリカはイギリスに比べれば成り上がりの新興国に過ぎなかった。それでも阿片貿易で儲けるイギリスの反倫理性を指摘することで精神的な優位性を保った。脱法ハーブや脱法ドラッグが社会問題になっている現代日本で忘れてはならない歴史である。

ペリーは浦賀来航に先立ち、琉球王国を訪問する。圧倒的な軍事力を背景にしていたにも関わらず、ペリーは琉球王国の高度に洗練された文化に劣等感を覚える。まるでイギリス人から成り上がりのアメリカ人と見下されたような感覚であった。軍事力に頼らない高度な文化国家であった琉球王国の面目躍如である。琉球王国というユニークな国家が消滅してしまったことは人類レベルでは大きな損失である。

後半は江戸幕府との交渉になる。日本では「泰平の眠りをさます上喜撰 たつた四杯で夜も眠れず」と詠まれたように砲艦外交に一方的に屈服したイメージが強い。しかし、『ペリー』では意外にも主張すべきところは主張する対等の交渉として描かれる。日本国内の内情はペリーには見えない。あくまでペリーからは、そのように見えたということに過ぎないが、日本を持ち上げ過ぎの感もある。
http://hayariki.net/10/51.htm
江戸幕府が清国や琉球王国とは異なり、対等な交渉相手としての態度を示し、文明の利器への知的好奇心を示したことが、日本だけが植民地化を免れて近代化に成功した背景として示唆される。欧米人から唯一優等生として認められた日本人という欧米中心主義、アジア蔑視の価値観にはまっている。人権や民主主義の観点で日本よりも社会意識の高い第三世界の国はいくらでもある。帝国主義化した点で日本の近代化は失敗だったと見ることもできる(林田力「非欧米で唯一帝国主義化した日本の失敗」PJニュース2011年3月7日)。

佐藤賢一は『赤目−ジャックリーの乱』(英仏百年戦争中の農民反乱)、『カエサルを撃て』(ローマに対するガリアの戦い)、『剣闘士スパルタクス』(ローマでの剣闘士奴隷の反乱)、『オクシタニア』(異端カタリ派)、『新徴組』(幕末の庄内藩)など歴史上の敗者を描きながらも新鮮な印象を与えてきた(林田力「佐藤賢一と藤本ひとみ 〜フランス歴史小説から幕末物へ」日刊サイゾー2011年10月17日)。しかし、『ペリー』では唯一近代化に成功した日本という、ありきたりな歴史観になっている。

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