2013年6月23日日曜日

骨董屋探偵の事件簿

サックス・ローマー著、近藤麻里子訳『骨董屋探偵の事件簿』は骨董屋を営む素人探偵の活躍を描いた推理小説の短編集である。骨董屋探偵というだけあって事件は考古学的価値のある文物が多い。
『骨董屋探偵の事件簿』の最大の特徴はオカルト趣味である。モリス探偵は霊感によって事件を解決する。ミステリーとオカルトは本来ならば相性がいい。読者は怪奇なもの、不思議なものを求めており、推理小説では殺人事件となって現れる。故にどれほど優れた名探偵であっても殺人事件を阻止することはない。殺人事件を解決する名探偵よりも殺人事件を阻止する名探偵の方が有能であるが、それは推理小説の需要を満たさない。
だから事件は起きる。それも考えられないような複雑怪奇な状況で。それによって読者のオカルト趣味を満足させる。しかし、その後の展開はオカルト趣味とは反対に進む。名探偵が謎を解き明かし、事件がオカルト現象でも何でもないことを明らかにする。このために探偵は一般にオカルトを否定する科学信奉者というイメージがある。
しかし、かのシャーロック・ホームズでさえ、阿片を吸引し、妄想にふける描写があった。オカルト趣味が興隆したヴィクトリア朝の社会背景を無視しては十分に楽しめない作品である。
探偵を科学信奉者のように位置付けることはステレオタイプである。勿論、阿片吸引は否定されるべきである。オルタナティブがドラッグ容認と結び付くことは、オルタナティブを市民的支持から遠ざけるだけである。特に脱法ハーブ(脱法ドラッグ)が社会問題になっている現代日本ではフィクション上も薬物への厳しい姿勢が求められる。それ故にホームズに理知的な人物とのイメージを振り撒くことは社会的に健全である。
その点で『骨董屋探偵の事件簿』は健全なオカルト趣味を振り撒く推理小説である。
日本では科学的捜査の対極は思い込み捜査であり、行き着く先が自白の強要である。これに対して『骨董屋探偵の事件簿』は非科学的捜査であるが、価値観は健全である。「十字軍の斧」では容疑者候補は一人に絞られ、グリムズリー警部補は逮捕状まで用意したが、疑いはクリアにならず、探偵に助けを求める。日本の警察ならば自白を強要して冤罪を作り出すところである。

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