2013年4月20日土曜日

クェンティン『人形パズル』

パトリック・クェンティン著、白須清美訳『人形パズル』(創元推理文庫)はピーター・ダルース海軍中尉と女優アイリス夫妻を主人公としたミステリー「パズルシリーズ」第3作である。第二次世界大戦中のアメリカ合衆国サンフランシスコが舞台である。

主人公は愛妻との貴重な休暇を楽しみたい海軍将校であるが、殺人事件に巻き込まれる。巻き込まれ型はミステリーの王道であるが、巻き込まれることを「待っていました」と心の奥底で期待しているかのように、巻き込まれてイキイキとするキャラクターが多い。これに対して主人公は夫婦水入らずの休暇を妨害されたくないという思いが強く、その思いと展開とのギャップがユーモラスである。

ストーリーは展開が速く、飽きさせない。真犯人のどんでん返しも用意されていて、ミステリーとして秀逸である。犯罪者の動機や背景の説明が真犯人のモノローグや名探偵の解説ではなく、犯罪学者の論文になっている点は意表を突かれる。唯一読みながら残念な点は犯罪者の正体を知っている人物の自称「病気」である。

これは病気と呼ぶものではなく、だらしなさに過ぎない。この人物がまともであったならば殺人は防げたのではないかと思いながら読んでいた。しかし、最後の最後で彼の「病気」中の行動が犯罪者の計算を狂わせたものであることが明かされる。これで彼の「病気」に対する後味の悪さが解消された。ストーリーが練られていると感心させられた。
http://hayariki.net/tokyu/9.htm
『人形パズル』は戦時中の物語であるが、「お国のために」と戦争一色であった日本とは大きく状況が異なり、それなりに市民生活を謳歌している。彼我の国力の差から日本が無謀な戦争をしていたことを改めて実感できる。

政治性や社会性の強い作品ではないが、好ましいものに対する形容として「日本の捕虜収容所で何ヶ月も過ごした後の白パン」という表現が登場する(15頁)。満足な食事も食べさせない日本軍の捕虜虐待は政治性の乏しい文学作品でも一般化していることが理解できる。巻末の「解説」が指摘するように「アメリカ市民社会の精神風俗を示す一資料としても興味深い」(227頁)書籍である。

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