2013年3月20日水曜日

林田力ブログ書評『不当逮捕』

ナンシー・テイラー・ローゼンバーグ著、吉野美耶子訳『不当逮捕』(講談社、2003年)は夜間パトロールを主担当とする女性警官レイチェルを主人公とする警察小説である。タイトルの通り、レイチェルが罠にはめられて不当逮捕される。

物語は飲酒運転と銃規制法違反の刑事訴訟で幕を開ける。被告人はレクサスのセールスマンである。ここでは良くも悪くもトヨタが米国社会に浸透していることが理解できる。

レイチェルをはじめとして『不当逮捕』で描かれる米国社会は疲弊している。貧困大国アメリカの実態が理解できる。困窮者に破産や生活保護という選択肢があるにも関わらず、前近代的な価値観から、それらを拒み、困窮する(133頁)。犯罪のでっち上げや証拠の隠滅など日本の警察不祥事と共通する警察の腐敗が描かれる。身内の不法を揉み消すという最も醜い警察の姿が描かれる。
http://www.hayariki.net/eco/18.htm
その中でレイチェルの倫理観はまっとうである。警察組織の組織を守るための言い訳も一蹴する。「今日警官が尊敬されないようになったのなら、それは警官に責任があるからだ。警官は合法的な暴力団になりさがっている」(261頁)

「警官たちは、たとえ罪のない人々が苦しむ結果になろうと、仲間を守りあい、ミスや不祥事をかばいあいます」(375頁)

一方で『不当逮捕』のタイトルから、ある日突然逮捕されるという展開を予想したが、レイチェルには事前に情報が提示され、心の準備ができている。また、強大で陰湿な警察権力相手にした孤立無援な闘いを予想したが、権力側の人間にもレイチェルの見方は登場する。日本社会を舞台に『不当逮捕』という小説を書くならば、このようにはならないだろう。アメリカ社会の闇の深さを描いた『不当逮捕』であるが、日本社会の救い難さと比べれば、まだ良心は存在する。

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