2013年1月7日月曜日

パトリック・ネス『問う者、答える者』

パトリック・ネス(Patrick Ness)著、金原瑞人・樋渡正人訳『問う者、答える者』(東京創元社、2012年)はSF小説「混沌の叫び」(Chaos Walking)三部作の第2巻である。原題は『The Ask and The Answer』である。邦題は哲学的であるが、下巻でアスクとアンサーというキーワードがカタカナで登場し、原題の方が表面的には理解しやすい。

物語の舞台は人類が植民した惑星・新世界New Worldである。ここの住民男性はノイズという症状が発生する。ノイズは考えていることが口に出さなくても音のような事象で出る現象である。一見すると超能力的であるが、頭の中が筒抜けになるために厄介である。ノイズは人間以外の生物にも見られるが、何故か女性には発症しない。

物語世界では植民して一世代も経過しておらず、産業化は途上である。移動手段は馬が使われ、飛行機もない。アメリカ大陸植民者のような生活に近い。新世界には先住生物もおり、人間は先住生物スパルクとの戦争に勝利して先住生物を労働力として使っている。

主人公は理由もわからず故郷プレンティスタウンを追われた少年トッドと、宇宙から来た少女ヴァイオラである。トッドを視点人物とした物語とヴァイオラを視点人物とした物語が交互に続く。二人は前作『心のナイフ』で逃避行を続け、人々がノイズから解放されているという平和な町ヘイヴンにたどり着いた。しかし、ヘイヴンは男ばかりの軍隊を率いるプレンティス首長に制圧され、ニュー・プレンティスタウンと改名されてしまった。

捉えられた二人は離れ離れになる。トッドは首長の部下にされ、ヴァイオラはレジスタンスの女性達と行動を共にする。二人は互いを強く思っているが、対立する陣営に属する形になったために誤解が膨らむ。各々の指導者達が狡猾に虚言や甘言を弄して、二人の距離を拡大させる。ヘイヴンを無抵抗で明け渡し、レジスタンスに批判的なレジャー前首長も卑小である。反体制という体制も含めて体制側の大人は卑劣であり、大人を信用してはならないという思いを強くする。

一見するとヘイヴンを侵略したプレンティス首長が悪玉で、レジスタンスは善玉である。実際、プレンティス首長の軍隊の残虐性は目に余る。現代世界の凄惨な戦争犯罪そのものである。しかし、レジスタンスの行動にも疑問がある。発電所や浄水場など住民の生活に必要な施設を爆破し、住民生活を苦しめる結果になる。イラクを占領した米軍と抵抗するテロリストを連想する。

「町の人たちが監禁、拷問、殺戮をくり返す首長をこのまま野放しにしておくなら、飢えてもらうしかない」というレジスタンスの論理は理解できる(下巻72頁)。服従を消極的な同意とする見解もある。太古の昔から悪党の言い訳は「指示どおりにやっただけ」である(下巻207頁)。
http://www.hayariki.net/4/39.htm
また、平和に暮らしていたヘイヴンの先住民も実は先住生物スパルクには実は非人道的な対処をしていた。何が正義で何が悪か最後まで見えない作品である。

SF作品では物語世界の技術水準にも興味がある。『問う者、答える者』は非文明的な生活が描かれるが、原子力バイクや原子力自動車、原子力ストーブなど原子力を動力源とする機械もある。これは福島第一原発事故を経て脱原発に向かう今後のSF設定では少なくなっていくだろう。例えばドラえもんから原子力の設定が削除された。今後SF作品で原子力がどのように描かれるか、または描かれないかは注目したい(林田力「ガンダム新作『機動戦士ガンダムAGE』は原子力を描くのか」リアルライブ2011年7月5日)。

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