2012年9月8日土曜日

海堂尊『ナニワ・モンスター』

海堂尊『ナニワ・モンスター』(新潮社、2011年)はパンデミック騒動を風刺した医療小説である。普通の風邪と大差ない弱毒性の新種インフルエンザにマスメディアが大騒ぎする。その背後には政府の悪意が存在した。新種インフルエンザの患者を出した家族は地域社会から差別され、その地域は日本社会から差別され、地域経済は大打撃を受ける。現実社会のパンデミックは大山鳴動してネズミ一匹で終わったが、本書の内容は放射能ノイローゼという現在進行形の問題に重なる。

福島第一原発事故は世界史上最悪クラスの原発事故となった。しかし、福島原発事故に起因する健康被害の原因の大半は放射脳の危険デマを盲信した放射能ノイローゼである。放射能危険デマの背後には、不安を煽って放射能フリー(ベクレルフリー)と称する怪しげな食品などを売り付けようという貧困ビジネスがあるために悪質である(林田力「放射脳カルトと一線を画す保坂区政の脱原発」真相JAPAN第115号、2012年9月7日)。

序盤の主人公・菊間徳衛が思索するように、過剰に不安を煽るパンデミックや放射脳に対して市民社会の良識と理性を期待する。後半では官僚達の暗闘が描かれる。大学病院から出発した海堂作品が政治の世界に舞台を広げていくことは著者及び作品の問題意識から予想される範囲内にある。但し、大学という空間ならばリアリティを持って受け止められる曲者揃いの登場人物達も、役所という世界ではギャップがある。著者が書きたいことを書いている作品である。

主要登場人物の台詞である。「日本の人口は減少に転じ、社会は滅びのフェーズにはいっている。必要なのは拡大文明の背骨を支えた過去のロジックの踏襲ではなく、縮小文明の店じまいルールの新たな構築です。」(海道尊『ナニワ・モンスター』新潮社、2011年、307頁)
http://hayariki.net/7/faqindex.htm
これは二子玉川ライズにも該当する。東京都世田谷区ではバブル時代の計画のまま、超高層ビル建設中心の再開発・二子玉川ライズが強行されている。二子玉川ライズは開発優先という「拡大文明の背骨を支えた過去のロジックの踏襲」である。時代遅れの二子玉川ライズを見直し、新たな街づくりが求められる(林田力『二子玉川ライズ反対運動2』)。

海道作品では街づくりにも鋭いセンサーを持っている。『極北クレイマー』では開発と福祉の対立関係を浮き彫りにする。『夢見る黄金地球儀』では無個性的な開発で活気を失った地方都市の現実を描いた。それは二子玉川ライズの未来を予言する。

「初めは海外のブランドショップとか入っていたが、次々と撤退してしまった。その跡に百円ショップとか千円マッサージとかコンビニとか、ジョナーズとかカコスとかのファミレス、要はどこにでもあるような店ばかりが溢れ返ってしまった」(145頁)

「ランチタイムなのに、半分の店のシャッターが下りている。開いている残りの半分のうち、そのまた半分はコンビニだったりファミレスだったりして、昔からの商店はほとんど見ない。これも時代の流れなのか。日本中の地方都市が、同じ顔つきになって老いさらばえているのだと思うと、持っていき場のない怒りに駆られる。」(167頁)

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