2012年9月17日月曜日

日本大沈没

『日本大沈没』は日本社会の沈没に備えて賢い資産防衛を訴える書籍である。センセーショナルなタイトルであるが、序盤でユーロ危機の構造的原因を解説するなど真っ当な経済書である。
本書はタイトルの印象とは異なり、終末論の予言書ではない。日本沈没は日本の滅亡を意味しない。一定期間の混乱後の再浮上も想定している。不安を煽る悪質な終末論デマと異なり、著者は来るべき日本沈没への備えを十分にした上で人生をエンジョイするスタンスである。
このため、日本大沈没というセンセーショナルなタイトルにしたことへの賛否は分かれるだろう。終末論を好む人々には自分の惨めな生活を抜け出したいために社会全体のカタストロフィーを待望する心理がある。例えば福島第一原発事故後に放射脳と呼ばれる放射能の危険デマを拡散する悪質な人々が現れた。彼らの中にはデマ情報に踊らされて生活の基盤を捨てて拙速に自主避難した人々がいる。自主避難という拙速な選択を正当化するために福島や関東が放射能汚染で人の住めない土地にならないと困るという事情がある。それが福島の放射能の汚染が深刻であると一生懸命にデマを拡散する動機になる。そのような層は本書のターゲットではなく、そのゃうな層に関心を持たれるタイトルとすることに意味はない。
本書は日本の財政が深刻な状態であることを明らかにする。ギリシャ危機が騒がれているが、そのギリシアよりも深刻な財政状態であると具体的な数値に基づいて主張する。この点でも本書は日本の深刻さを述べるもので、終末論待望者が期待するような世界的なカタストロフィーを述べるものではない。
著者のスタンスは市場原理に委ねる新自由主義である。新自由主義的な小泉構造改革によって格差が拡大・固定化し、貧困が社会問題になった。ゼロゼロ物件のような貧困者を搾取する貧困ビジネスも横行している。
これに対して本書は「格差議論は根本的に間違っている」「日本には世界レベルの貧困層なんていない」「生活保護に本当に値する人は200万人もいない」など富裕層に心地よい主張が並ぶ。これらの主張には支持できない人も多いだろう。特に海外に餓死寸前の深刻な貧困層がいることは日本の貧困問題を矮小化してよいことにはならない。グローバリゼーションは人々を下のレベルに平均化するものとの反グローバリゼーションの主張を正当化させる。
それでも本書の主張には興味深い点がある。金融資本主義の破綻を印象付けたサブプライムローン、リーマンショックについて、資本主義故の問題ではなく、逆に市場原理が機能しない故に起きたと主張する。172頁。
日本でも新自由主義政策の失敗として郵政民営化がある。かんぽの宿は格安で東急リバブルなどに転売され、高値で転売された。国民の資産が切り売りされ、東急リバブルなどの金儲けに悪用された。しかし、これも理念としての新自由主義の失敗というよりも、市場原理による公正な売却がなされず、特定企業の利権となったことが大きい。理念としての新自由主義と新自由主義を金儲けに都合のよい道具として使う輩は区別する必要がある。
著者は「他人の書いた経済学や金融の本や論文はまったく読まない」と断言する。81頁。そのため、本書から様々な考えを学ぶことはできない。資産防衛策も一般的に危険とされる不動産投資には好意的で、逆に経済危機に強いとされる金に否定的と良くも悪くもユニークである。林田力
http://hayariki.net/

0 件のコメント:

コメントを投稿