2012年9月17日月曜日

さいとう・たかを『ゴルゴ13 166』

さいとう・たかを『ゴルゴ13 166』は表題作「至近狙撃」を含む4話を収録する。「至近狙撃」はリニアモーターカー利権を背景とした話である。米国国務次官補が来日しリニアモーターカーに試乗することになった。利権そのものの描き方は表層的である。利権にどっぷり浸かってきた日本のゼネコンが被害者側として描かれており、いくら外資では安全性が損なわれると主張したところで説得力はない。東急建設が暴力団を下請けに使っていた事実が明らかになったように日本のゼネコンの闇は深い。

「至近狙撃」の見所はゴルゴの例外的対応である。ゴルゴは「依頼人は包み隠さず依頼の背景を説明しなければならない」というルールを依頼人に課している。もし依頼人が虚偽の説明をした場合、死の制裁が下される。しかし、今回は様子が異なる。依頼人の面子を立てた人情味ある対応と依頼人は分析した。

依頼人の動機は私怨であるが、その内容は怒って当然のものである。相手を殺害したいと復讐心を抱くことは心情的に理解できる。むしろ表向きの理由の方が日本のゼネコンの利権体質を踏まえれば白々しい。単なる利権争いにしか見えない。

故にゴルゴとしては自分が把握している事実を突き付けて依頼人に本音を吐露させることもできた。実際、そのような展開は過去に存在した。この話はゴルゴが例外的対応をしたことが味になっているが、それ故にゴルゴらしくない、連載長期化によるキャラクター設定のブレとマイナス評価することもできる。

次の「環の城」は中国の農村が舞台である。中国の通信社本部を追われた男女の元記者が視点人物である。男性記者の故郷の村に帰ったが、そこでは党地方幹部が横暴の限りを尽くしていた。経済的利益の独占を目論む腐敗した党幹部によって土地を追い出される農民の怒りと悲しみが描かれる。これは中国の特殊事情ではなく、資本主義化する社会で普遍的に見られる病理である。資本主義黎明期のイギリスでは囲いこみが行われた。
http://www.hayariki.net/7/5.htm
現代日本も他人事ではない。東急電鉄や東急不動産は二子玉川東地区再開発(二子玉川RIZE)によって駅前の個人商店を追いやり、二子玉川駅前の土地を独占利用する(林田力『二子玉川ライズ反対運動』)。また、東急大井町線高架下住民は東急電鉄による一方的な立ち退き被害に遭っている(林田力『二子玉川ライズ反対運動3』「東急電鉄が大井町線高架下住民を追い出し」)。

その意味で、この話のラストは印象深い。開発による経済的な利益よりも、人々が暮らし続けられる状態にしておくことが人々の幸せであることを示唆している。

0 件のコメント:

コメントを投稿