2012年6月25日月曜日

信長のシェフv林田力Wiki記者レビュー

『信長のシェフ』は現代のシェフが戦国時代にタイムスリップし、織田信長の料理人になるというタイムスリップ物である。単なる未来人のタイムスリップではなく、シェフという専門的な技能を有している人物をタイムスリップさせることで料理という奥行きを物語に与えている。戦国時代には存在しない原材料を工夫する物語にもなっている。この点で医者を幕末にタイムスリップさせた『仁』にも重なる。
長編漫画のタイムスリップ物はタイムスリップというSFよりも重厚な歴史ドラマを描く傾向にある。タイムスリップは物語の導入部に過ぎず、その後の物語はタイムスリップした過去の時代で進む以上、歴史ドラマを重厚にすることは当然の成り行きである。そのためには現代に戻りたいという意識や自分がタイムスリップした意味を問うというタイムスリップ物の定番展開は邪魔である。
『信長協奏曲』の主人公は現代に戻りたいという意識が乏しい点で異色であったが、『信長のシェフ』では記憶を喪失しており、タイムスリップしたという自覚も欠けている。これによって歴史ドラマを存分に楽しめる。
タイムスリップ物は歴史のイフを楽しむ作品であるが、タイムスリッパーの歴史介入によって歴史が大きく変わってしまうと物語の収拾がつかなくなる。『信長のシェフ』は主人公の行動によって史実として知られている歴史通りになっていく。未来を変えるタイムスリップではなく、『ドラえもん』のような予定調和型のタイムスリップ物である。
『信長のシェフ』の興味深い点は、羽柴秀吉を目付きの悪い俗物に描いているところである。一般の歴史物では天才・信長を最も理解できた人物として秀吉を描く。これに対して『信長のシェフ』では主人公を信長の理解者とするために秀吉が凡人になる。
秀吉は朝鮮出兵など晩年に大きな汚点を残した。それでも信長の家臣時代の秀吉は好意的に描かれることが多かった。晩年はもうろくしたと説明されるが、一人の人間として一貫性のある描き方ではない。タイムスリップ物の『信長協奏曲』では腹黒い秀吉を描くなど新しい秀吉像に着目したい。
森という武辺者を爽やかに描く。信長は後世からは革新的な政策が注目される。注目される家臣も秀吉や明智光秀のように頭脳派であった。戦国大名としては数々の負け戦を経験し、武田信玄の上洛に怯え、上杉謙信に大敗するなど必ずしもピカ一ではない。信長は女であったという小説もあるほどである。これに対して『信長のシェフ』では森のような良識ある武人肌の武将から慕われる信長という一面を描いている。前田利家のようなカブキ者から慕われる信長像は珍しくないが、森という大人の武人に慕われる点のクローズアップは新鮮である。
第四巻は姉川の合戦がメインである。浅井長政と信長の行き違いを丁寧に描く。浅井の離反は浅井久政の影響を強く描く傾向にあるが、『信長のシェフ』では長政の問題としてまとめている。天才・信長を理解しようとして理解できなかった葛藤が浮かび上がる。
主人公が姉川の合戦の勝利の影の立役者になるが、農民を狩り出した浅井朝倉軍と職業軍人中心の織田軍の相違を上手に利用している。
http://www.hayariki.net/

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