2012年6月22日金曜日

『連環宇宙』v林田力Wikiレビュー

『連環宇宙』はSF小説である。世界観を共有するシリーズ物の一作であり、「時間封鎖」や「仮定体」という独自の用語が登場するために本書から読み始める読者には一見すると取っ付きにくさもあるが、意外にも読み進めることができた。その一因として冒頭で路上生活者という現代的な問題が取り上げられていることが挙げられる。不十分な福祉予算や行政の臭いものに蓋をする体質など現代日本の住まいの貧困問題に共通する。
本書は現代に近い近未来のアメリカを舞台にした物語と一万年後の未来を舞台にした物語が交互に繰り返される。この点で『はてしない物語』や『ヒストリアン』と共通する。これらは皆、主人公が物語を読んでいくという構成を採っている。
しかし、本書の効果は類書とは異なる。『はてしない物語』などでは主人公が物語に引き込まれ、それが読者も物語に引き込む効果を持っている。主人公の世界の物語は、主人公の物語を読み進めるという行動が中心となり、付録のようなものになる。読者の関心は主人公が読む物語にある。
これに対して本書は主人公が物語を読むという描写が乏しい。物語とは直接関係しない陰謀が主人公の周囲で進行する。つまり、二つの物語が平行して展開している。ラストは壮大なスケールになる。仮定体の正体も明らかになる。それは決して慈悲深い菩薩のような存在ではなかった。ひたすらスクラップ&ビルドで増殖を続ける現代のハイエナ資本主義のシステムを連想する。一部の人々は仮定体を神のように崇めるが、神の見えざる手を信奉する発想に重なる。林田力
http://hayariki.net/

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