2012年6月2日土曜日

技師は数字を愛しすぎた

『技師は数字を愛しすぎた』はフランスのミステリーである。パリ郊外の原子力関連施設で技師が殺害され、核燃料チューブがなくなった。この核燃料チューブは爆発と放射能汚染でパリ市の半分を壊滅できるものである。ところが、犯行現場に人が出入りした形跡がない。密室ミステリーである。
戦後しばらくの1958年に出版された書籍であるが、福島第一原発事故を抱える現代日本で読めば緊迫感は一層高まる。福島第一原発事故は原子力発電の安全神話を壊滅させた。確かに原子炉が相対的に頑丈にできていることは認めてもいい。しかし、仮に格納容器が頑丈でも電源供給がなくなれば危機的状況に陥る。いくら格納容器を頑丈にしても安全は確保できない。現在では原子炉よりも核燃料プール倒壊の危険が指摘される。その意味で巨大な施設を破壊するというような壮大なスケールではなく、人が抱えて持ち運べるような核燃料チューブで恐怖を描く視点は興味深い。
放射能は目に見えず、臭いもない。放射能の害は体感しにくい。福島第一原発事故後の日本でも放射能の害をめぐって情報が錯綜した。不安ばかりが一人歩きした面もある。本書でも現実感の欠けた不安を描いている。
肝心要の密室殺人であるが、ステレオタイプなミステリー観ではルール違反と受ける向きもあるかもしれない。犯行時に誰も部屋に入らず、誰も部屋から出なかった。不可能殺人であり、捜査は行き詰まる。そこで発想を転換する。誰も部屋に入らずに誰も部屋を出ない状態での殺人が不可能であるならば、その前提を疑ってみる。この推理は新鮮である。林田力
http://www.hayariki.net/

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