2012年5月31日木曜日

林田力wiki:荒川弘『鋼の錬金術師』

荒川弘『鋼の錬金術師』は『月刊少年ガンガン』で連載していた漫画作品である。「ハガレン」の略称で親しまれ、最終回が掲載された『月刊少年ガンガン』は売り切れるほどの人気作品である。2003年にテレビアニメ化され、2005年には映画『シャンバラを征く者』が公開された。

『鋼の錬金術師』は錬金術が使える架空の世界を舞台にした物語である。エドワード(エド)とアルフォンス(アル)のエルリック兄弟は病気で亡くした母を錬金術で蘇らせようとして失敗。エドワードは左足と右腕を失い、身体を失ったアルフォンスは魂を鎧に定着させることで生き延びた。身体を取り戻すために旅に出た兄弟は、軍部の陰謀に直面することになる。

『鋼の錬金術師 20』で過去の回想がメインであった直近の巻から、ストーリーが大きく動き出す。冒頭でホムンクルス(人造人間)が襲撃してくる。これまで圧倒的な強敵として描かれてきたホムンクルスであったが、ここでは錬金術師側が優勢である。知恵と団結でホムンクルスに対抗する。

しかもホムンクルスに脅迫された被害者としての印象が強かったティム・マルコーが活躍している。主要登場人物に助けられ、救われるだけの存在と思っていたが、この戦いではかっこよく描かれている。この巻では、他にも軍部の実験でキメラ(合成獣)とされた後、主人公側に寝返った軍人が活躍する。彼らは、登場時は敵役であって、やられ役であった。正直なところ、これほど活躍することになるとは想像できなかった。

物語として描く場合、主人公や主要な仲間達ばかりが活躍する傾向になりやすい。また、読者層を考えれば少年少女が活躍しなければ支持を得にくい。いきおい強大な敵勢力にアウトロー的な主人公一行が孤軍奮闘する展開となりがちである。

これに対し、本作品の魅力は脇役の活躍が光っている。これがストーリー展開にリアリティを持たせ、作品の奥行きを深めている。この巻はホムンクルスとの最終決戦が近付いていることを示唆して終わる。

軍部内でもホムンクルスに対抗するグループが慎重に連携して決戦に備えている。この巻の戦いでは綿密な準備によってホムンクルスに勝利できることが示された。最終決戦でも人間側がホムンクルスを出し抜くことができるのか。今後の展開が楽しみな終わり方であった。

ハガレンの魅力は物語性にある。人気のある連載漫画は商業的な意向から引き延ばされる傾向がある。しかし、ハガレンでは人気のある中で最終回を迎えたことが示すように物語としてのまとまりを優先させた。

人気のある限り連載を続ける作品ではないため、キャラクターも考え抜かれている。『鋼の錬金術師 26』の見どころは七つの大罪を象徴するホムンクルスの一人・傲慢(プライド)を意味するセリム・ブラッドレイとの戦いである。セリムはエドと戦うが、意外な人物に邪魔される。

その人物は登場時から独特のポリシーを有していた悪役であった。その所業は道義的に決して許されるものではないが、彼には悪の魅力、悪の華というものがあった。その彼が単なるヤラレ役、強敵の引き立て役で終わってしまうことはもったいないと思っていたが、ここで活躍させる予想外の展開には舌を巻いた。

彼は最後まで自らの美学に沿って行動した。もし彼が最後に改心して善人となる御都合主義的な展開ならば、彼の魅力を損なってしまっただろう。しかし、彼は最後までブレないまま、それでいながらエドの戦いに影響を及ぼし、エドを深く理解していた。

集団主義的な日本社会では他者に同調するか否定するかの両極端に走り、異なる個性として他者を理解するということが不得手な傾向がある。その点で自己の美学を保ちながら、相反する価値観の他者(エド)を理解できる彼は魅力的なキャラクターである。このようなキャラクターが物語を構成していることがハガレンの魅力である。
http://www.hayariki.net/5/26.htm
王道的なバトル漫画において仲間との絆は重要な要素である。少年ジャンプの三本柱の一つに友情があるほどである。しかし、王道バトル漫画において仲間との絆の扱いは非常に難しい。最後は圧倒的な力を持ったラスボスを、それを上回る力を持った主人公が倒すという展開が待っているためである。

主人公が活躍しなければ王道バトル漫画にならない。しかし、それは仲間との絆がなくても、主人公が圧倒的な力でラスボスを倒せば済んでしまうことを意味する。それでは味気ないために仲間との絆が挿入されるが、取って付けたようなエピソードでは面白くない。

この点で最終巻『鋼の錬金術師 27』は秀でている。主人公がラスボスを倒すという見せ場を用意するが、そこに到るまでに仲間の戦いが必要であることが描かれる。さらにグリードのエピソードによって仲間の価値が示される。(林田力)

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