2012年5月13日日曜日

『犠牲のシステム 福島・沖縄』戦後日本の欺瞞を暴く

高橋哲哉『犠牲のシステム 福島・沖縄』(集英社新書)は誰かを犠牲にして成り立つ戦後日本社会の欺瞞を暴く新書である。著者は東京大学大学院総合文化研究科の教授である。福島第一原発事故で警戒区域となった富岡町などで幼少期を過ごしたという。『逆光のロゴス』『記憶のエチカ』などの著書がある。

『犠牲のシステム』は原子力発電所も沖縄の米軍基地も犠牲のシステムとして位置付ける。「犠牲のシステムでは、在る者(たち)の利益が、他のもの(たち)の生活(生命、健康、日常、財産、尊厳、希望等々)を犠牲にして生み出され、維持される。犠牲にする者の利益は、犠牲にされるものの犠牲なしには生み出されないし、維持されない」と指摘する。

本書は米軍基地を抱える沖縄と原発事故を抱える福島から犠牲のシステムを可視化するが、戦後日本のあらゆる場面で存在する。東急不動産(販売代理:東急リバブル)が不利益事実を隠して新築マンションをだまし売りした東急不動産だまし売り裁判も犠牲のシステムである(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社)。
http://hayariki.jakou.com/3/faqindex.htm
東京都世田谷区玉川の再開発・二子玉川ライズに数百億円の税金が投入され、近隣住民が風害や日照被害で苦しむ一方で、東急電鉄・東急不動産らが経済的利益を得る構図も犠牲のシステムである(林田力『二子玉川ライズ反対運動』マイブックル)。

重要な点は「犠牲にする者」と「犠牲にされるもの」は非対称であることである。「犠牲にする者」は一方的に利益を得るだけであり、「犠牲にされるもの」は一方的に犠牲を受けるだけである。東急不動産だまし売り裁判では不利益事実を隠したマンションだまし売りによって東急リバブル東急不動産は利益を得る。東急不動産だまし売り被害者は屑物件を抱える損害のみである。二子玉川ライズでは東急電鉄・東急不動産らが開発利益を得て、住民は環境破壊の被害のみを受ける。
http://yaplog.jp/hayariki/archive/634

それ故に「経済成長や安全保障といった共同体全体の利益のために、誰かを『犠牲』にするシステムは正当化できるのか」という問題提起はミスリーディングに陥る危険がある。経済成長や安全保障として定立されるメリットは「犠牲にする者」だけの利益であって、「犠牲にされるもの」を含む共同体全体の利益とは限らない。

米軍基地にしても原発にしても「誰かが犠牲にならなければならない問題」と定義されてしまうと閉塞してしまう。それは普天間基地移転の迷走が象徴する。その時点で犠牲のシステムの罠に陥ってしまう。

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