2012年5月5日土曜日

渡辺淳一欲情の作法

渡辺淳一「欲情の作法」は恋愛小説で名高い著者による実践的な恋愛の入門書である。冒頭から「男とは」「女とは」と性別ステレオタイプな見解が目白押しである。本書の男性論女性論は生物学的な差異を出発点にしているものの、ジェンダーに否定的な立場からは受け入れがたい面もある。
一方で、これもステレオタイプな見解であるが、若年層は草食男子になっていると指摘されることがある。そのような傾向に対する高齢世代の著者なりの問題提起と読めば面白い。もっとも、本書は「最近の若い者は」的な説教臭さとは無縁である。読者が元気になるように提言する。説得の話運びの巧みさを実感した。
人間には十人十色の個性がある。それ故に「男とは」「女とは」と個性を無視してステレオタイプな見解を当てはめることは正しくない。一方で人間を個人としてではなく、集団として社会学的に分析する場合、グルーピングしてグループに属性を付すことは有効である。ここが人文科学と社会科学のアプローチの差異である。
問題はグルーピングが適切かという点である。男性と女性の分類では人類を二分割しただけである。血液型占いよりも大ざっぱな分類である。一方で恋愛において男と女は重要なアクターであり、男性論女性論も一定の意味がある。
但し、著者は恋愛小説で多くの読者を感動させてきた作家である。不倫のような反倫理的な恋愛も感動的に描いてきた。それが感動的である理由は登場人物の個性が表出された言動だからである。「男は浮気する生き物」とまとめられると感動が色あせてしまう。そこは医者でもある著者であり、人間に対する覚めた視点も同居している。
この種の二面性は林田力にも思い当たる。林田力は東急リバブル東急不動産から新築マンションをだまし売りされ、裁判で売買代金を取り戻した経緯を「東急不動産だまし売り裁判こうして勝った」にまとめた。当然のことながら、「不利益事実を隠して新築マンションをだまし売りした東急不動産はけしからん」という思いがあった。一方で問題物件を売り逃げして利益を上げる悪徳不動産業者の行動原理を理解するという覚めた気持ちもあり、文章をまとめることに苦労した。
http://hayariki.net/
「美しい」というのは、かつて安倍元総理が唱えた「美しい国」という言葉が無意味であったように、あまり個性的とはいいかねます」62頁
本書には恋愛にとどまらず、社会的な含蓄もある。林田力は同じように東急グループの標語「美しい時代へ」の無意味さを実感する。

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