2012年4月15日日曜日

ミラー衛星衝突上巻

ミラー衛星衝突はSFである。帝国の植民地となった惑星で太陽光を補うミラー衛星が貨物船の衝突により、破壊された。事故かテロか、真相を調査するために皇帝直属の聴聞卿が派遣された。
人類が地球以外の惑星に居住し、恒星間の旅行ができるほどの技術のある世界であるが、テクノロジーは完璧ではない。それがSF作品でありながら、物語を人間的にしている。
惑星コマールの大気は人間の生存に適しておらず、住民はドームの中で生存している。酸素を放出する植物を増やすなど人間が生存できる環境にするための地球化事業が数世紀前から進められているが、数世紀後になっても完了するか分からないという途方もない事業である。
ミラー衛星も数世紀前に建造されたものであり、再建は容易ではない。万里の長城やピラミッド、ローマの水道橋など古代のテクノロジーを連想させる。スクラップ・アンド・ビルドで数十年程度で建て替えを繰り返す現代日本の建築の貧しさを実感する。
物語の舞台となる社会は皇帝が支配する帝国である。ヴォルと呼ばれる貴族階級には男尊女卑や遺伝的疾患への差別・偏見という前近代的思想が根強い。
物語のヒーローのマイルズ・ヴェルコガシンは名門貴族の跡取り息子ではあるが、身体的なハンディキャップを抱えている。周期的に発作が起きるという不治の症状も抱えている。一般的なヒーロー像とは異なるユニークな設定である。
主人公的存在のエカテリン・ヴォルソワソンは妻は夫に従うという封建的な道徳観念に縛られて苦しんでいる。現代の進歩的な女性ならば一笑に付したくなる悩みである。しかし、上巻のラストでは自分の意思で決断する。周囲の人物の助言を受けてではなく、自分で考え抜いて決断するところに近代人の自我の誕生と重ね合わせることができる。
下巻に向けて陰謀が姿を現してくる。コマール人の反乱がほのめかされるが、価値が逆転しているところが難しい。バラヤー人の帝国がコマールを侵略し、征服した。コマールの降伏後にも非武装のコマール人が虐殺されるという蛮行が繰り広げられた。それ故に反乱側に感情移入したくなるが、主人公側が帝国となっている。下巻の展開に注目である。林田力
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