2012年3月18日日曜日

失われたミカドの秘紋

「失われたミカドの秘紋」は陰謀論的な歴史観に立って歴史の新説を提示する小説である。歴史に対する見解や主張は登場人物のセリフとして語られており、著者の思想そのものとはワンクッション置いている。
本書中の思想には容認できないものもある。中国をチャイナと呼んでいる。中華思想に否定的な立場からのものであるが、相手国を無視した呼び方である。これでは現代日本が倭と呼ばれても文句を言えない。
また、偽満州国民であった満州族の人物を登場させ、偽満州国を肯定的に評価させている。その種の考えは偽満州国の特権階級が抱くことはあり得るが、満州族に一般化することは歴史の歪曲・美化になる。さらには漢族がアフリカ発祥の現人類とは異なる北京原人の子孫という悪質なレイシズム思想もある。
救いは日本民族に対しても同じように相対化していることである。中国を貶めて自民族の優位性を主張するネット右翼とは相違する。
そして、問題を差し引いても本書は魅力的な思想を提示する。天皇崇拝者が登場するが、天皇の自由を奪い、自らは天皇の権威に隠れて特権をむさぼる宮内庁を強く批判する。これは日本の官僚機構の国民無視の特権意識に通じる。官僚が国民の声を無視して自らに都合のよいことを行える背景には天皇につながっているという意識がある。それを明快に説明する。
さらに中華人民共和国が天皇制で利益を得ているという嫌中右翼が目を白黒させそうな話も登場する。中国は南京大虐殺や靖国神社参拝では日本を非難するが、天皇制という根本問題では沈黙する。それは中国政府にとって天皇制が利益があるからという。現実に天安門事件での西側世界の非難がうやむやになった契機が天皇訪中であった。天皇制の下で天皇の権威に隠れて官僚が甘い汁を吸っている限り、日本は中国の脅威ではない。逆に日本が共和制になり、国益を考える政治家が登場する方が脅威とする。右翼には国益重視の立場が多いが、国益を害しているものは何か見直す必要がある。林田力
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