2012年1月24日火曜日

女教皇ヨハンナ上

カトリックの歴史から抹殺された男装の女性教皇を主人公とした歴史小説である。カール大帝没後の不安定なフランク王国を舞台に主人公ヨハンナの誕生から物語が始まる。タイトルや紹介文から中世ヨーロッパの政治史を期待するが、上巻はヨハンナの少女時代に費やされ、陰謀渦巻くローマ教皇庁での権謀術数は描かれない。僅かにローマを舞台した別の物語が挿入されるが、本編との関連は謎のままである。
代わりにヨハンナのような知識欲ある女性を抑圧する家父長的な中世キリスト教社会が強調される。まさに暗黒の中世である。キリスト教の思想が個人の尊厳と両性の平等を損なう家父長主義に利用された実態が描かれる。一方でキリスト教が本質的に家父長的であるというような現代人感覚での早急な断罪を下すわけではない。社会の大勢にはなっていないが、主人公や良心的な学者は不合理を疑う理性も神が人間に与えたものと理性をキリスト教イデオロギーと両立させる。中世とルネサンスは対照的に位置づけられがちであるが、近年では中世の豊かさが再評価されている。本書は中世にルネサンスの思想的萌芽があったことを浮き彫りにする。林田力
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