2011年12月30日金曜日

ヨルムンガルド10巻

ココ・ヘクマティアルと私兵チームの世界をまたにかけた戦いを描く。ココは世界的な海運業者の娘で、武器商人である。自身の護衛や裏家業のために私兵を擁している。クールビューティーであるが、何を考えているか分からない不気味さが漂う。戦争をなくすために武器商人をしているという一見すると矛盾する発言をしたココであるが、この巻ではココの野望であるヨルムンガルドの内容が明らかになる。
ココの私兵チームは様々な人種、様々な経歴で構成される。これまでのエピソードには私兵の過去の因縁に決着をつける話もあった。もう一人の主人公的存在が私兵チームの新入りの少年兵である。彼は戦争孤児であり、戦争を人一倍憎むが、生き延びるために武器を持って戦うという矛盾を抱えている。年齢や悲惨な境遇の割にはクールな考えの持ち主であるが、その彼がヨルムンガルドの内容を知った時の反応が見所である。
ヨルムンガルドは世界を舞台にした作品で、中国のアフリカ進出など国際情勢のリアリティを反映している。日本の闇組織も登場するが、あくまで脇役として物語の1ピースにとどまる。日本の漫画だからと言って特に日本に思い入れがある訳ではない。ここには日本の漫画という枠に囚われない普遍性がある。
たとえば現代の国家とは切り離された未来を描く機動戦士ガンダムでも、ガンダムSEEDでも物語の主要国家の中立国オーブは軍艦の名前や軍隊の階級に日本的要素があった。ガンダムOOは三大国に統合された世界でありながら、日本は経済特区であった。日本の作品である限り、日本を特別扱いする限界からは免れにくい。
白人の設定のココは外見だけでなく、思考も日本人離れしている。一方でココの何を考えているか分からない微笑は日本人読者にとって不気味に感じるが、欧米人も自己の意見を明らかにしない日本人の微笑に不気味さを感じている。腹の内を明らかにしないために微笑を絶やさないココは日本人的でもある。
さらに武器商人として冷酷であり、ヨルムンガルドで合理主義を徹底するココであったが、自分達の私兵には強い仲間意識を抱き、信頼を求めている。多数の人々を犠牲にするヨルムンガルドは合理主義から正当化するが、私兵から批判されたことには衝撃を受ける。この仲間と仲間以外の人間への落差にココの秘められた幼児性と日本人的な側面を垣間見れる。
欧米人は人種や宗派的な偏見によって人間とは思わない相手には冷酷になれるが、神の前に人間は平等という倫理観は有している。ココと私兵チームは特定の人種や宗派で結び付いた存在ではなく、一緒に活動してきた仲間意識があるに過ぎない。その仲間と仲間以外の人間を区別するココの意識は欧米的というよりも日本的である。普遍性を描きつつも内面には日本的な要素のある作品である。林田力
http://hayariki.net/

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