2011年9月9日金曜日

2013年大河ドラマ『八重の桜』の好テーマと不安:林田力

2013年のNHK大河ドラマが新島八重を主人公とした『八重の桜』に決まった。新島八重は幕末から近代を生きた会津若松出身の女性である。戊辰戦争の会津若松籠城戦では自らスペンサー銃を持って戦い、「幕末のジャンヌ・ダルク」とも称された。このような女性を主人公とすることは画期的であるが、不安もある。

史実の新島八重は男子に交じって米俵を担げるような体格の持ち主であり、主演の主演は綾瀬はるかのイメージとはギャップがある。しかし、テレビドラマ『JIN-仁-』の橘咲で演じた意思の強さや先進技術への知的好奇心は新島八重の内面に適合している。

『八重の桜』が大河ドラマに選ばれた背景には東日本大震災がある。甚大な被害を受けた東北を勇気づけるために会津出身者が選ばれた。しかし、開明的な佐幕派の再評価という流れにも沿ったものである。「歴史は勝者が作る」との言葉通り、伝統的な幕末史は薩長が官軍で、幕府が賊軍という視点で書かれてきた。その反動から白虎隊なども取り上げられたが、それは判官贔屓的な心情からで、佐幕派を評価したものとは限らなかった。

佐幕派を評価するものも新選組に代表されるように武士道精神という過去の美徳に依拠する傾向があった。ここでは佐幕派は悪の汚名を免れるが、進歩的な薩長と時代遅れの佐幕派という二元論は拡大再生産されてしまう。しかし、佐幕派にも開明派はいた。むしろ攘夷から転向した尊皇派以上に骨太と言ってもよい。その歴史に埋もれた開明的佐幕派に近時は光が当たりつつある。
http://www.pjnews.net/news/794/20110908_1

たとえば2010年出版の佐藤賢一『新徴組』はいち早く近代的軍制を整え、戊辰戦争でも官軍を撃破した庄内藩を描く。同じく2010年出版の藤本ひとみ『幕末銃姫伝 京の風 会津の花』は西洋式砲術を身に付けた山本八重(後の新島八重)と兄の覚馬が主人公である。漫画でもロシア留学経験のある開明的な旗本を主人公に戊辰戦争を描く、かわぐちかいじ『兵馬の旗』が2月から連載を開始した。この点で東日本大震災がなくても新島八重を大河ドラマの主人公とすることは好選択である。

しかし、開明的な佐幕派を描く上で避けて通れないものがある。守旧派の救いがたいほどの無能と事なかれ主義である。開明的な佐幕派にとって障害は薩長以上に自陣営内の頑迷な守旧派であった。実際、『新徴組』では将軍の直臣であることを鼻にかける旗本に泣かされる。『幕末銃姫伝』では槍や刀を信奉する守旧派が会津藩の主流に位置し、八重や覚馬の砲術は十分な活躍の機会を得られなかった。佐幕派として命を張ることがバカらしくはるほどの状況である。

これは東日本大震災や福島第一原発事故における政府の後手後手の対応に重なる。政府は無能であったが、被災地の個々の国民の努力と忍耐で最悪の事態だけは回避できているという状況は不幸である。綾瀬はるかは『仁』で不合理な運命にも耐え忍ぶ意思の強さを見せた。しかし、権力者の無策を棚に上げて、個々人のレベルで努力することを是とするようなメッセージが大河ドラマに込められることにならないか心配である。【了】

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